前回紹介したBluetoothオーディオモジュールBM62を組み込んだワイヤレスアンプを製作しました。
ある程度大きな基板に、可変抵抗を使わないぶんリード抵抗を実装できるように設計し、工房ではこれをオペアンプの使い方を学ぶ講座の教材に使用しました。
記事修正履歴
2018/07/22
・使用オペアンプをNJM2737→NJM2732に変更。動作が不安定なため。
概要
※写真には一つ前の試作品を使用しています。最新版とはAUX入力端子が無い、ボタンの表示が雑といった差異があります。順次更新予定。
多機能BluetoothオーディオモジュールBM62の性能を引き出せるよう、様々な回路をタバコの箱とほぼ同じサイズに詰め込みました。リード部品を入れるためやや大きめではありますが、そのぶん大容量の電池を組み込むことができ、使用可能時間が非常に長くなっています。
USB電源に接続しながらの使用にも対応。Bluetooth対応のパソコンに接続すればあたかもUSBDACであるかのように使用できます。もちろんスマートフォンや携帯音楽プレイヤーにも接続でき、一般的なポータブルBluetoothアンプと同等の機能を備えてい
ます。
また、AUX入力を備えるため、イヤホンを挿しかえることなくアナログ機器の音声を聞くことができます。
このアンプ最大の特徴は、何といっても外部アンプのゲインを自由に設計できる点です。アンプの出力が大きすぎて音量調整に不自由を感じる場合は出力を下げることもできますし、パワーが欲しい場合は最大40mWの出力が可能です。
外部アンプのオペアンプにはNJM2732とAD8656を使用しました。どちらもユニティゲイン安定ですので、どんな利得設定でも使うことができます。
性能
通信方式 | Bluetooth 4.2 |
最大通信距離 | 見通しの良い状態で10m以内 |
使用周波数帯域 | 2.4GHz帯 |
対応プロファイル | A2DP、HFP、HSP、AVRCP |
対応コーデック | SBC、AAC |
マイク | 内蔵エレクトリックコンデンサマイク |
AUX入力 | 3.5mmステレオミニジャック |
最大出力レベル | 4.4mW (16Ω) ※ |
出力端子 | 3.5mmステレオミニジャック |
電源 | 3.7V Li-poバッテリー |
充電端子 | 5V microUSB電源 |
充電時間 | 約4時間 |
連続使用時間 | 約24時間 |
使用温度範囲 | 10~45℃(バッテリー充電) |
外形寸法 | W55×D88×H18mm |
※アンプの設定ゲインによる。最大40mW
操作方法
各モードでの操作方法を示します。これはデフォルトのものではなく、工房製作のワイヤレスアンプ用に調整した物になります。まだデータシートを読んだだけですので間違いがある可能性もあります。
まず電源ボタン(MFB)を長押しすると電源がつきます。そのまま押し続けるとペアリングモードとなります。
通常時 | Power | REV | PLAY | FWD | VR- | VR+ |
押 | – | 前の曲 | Play/Pose | 次の曲 | ボリューム- | ボリューム+ |
長押 | 電源 | 前のアルバム | Stop | 次のアルバム | – | – |
また、VR+,VR-を同時に長押するとボタンロック(誤操作防止)、REVとFWDを同時に長押でペアリングモードに移行します。
ボイスダイヤル/発信 | Power | VR- | VR+ |
押 | キャンセル | ボリューム- | ボリューム+ |
長押 | キャンセル | – | – |
着信 | Power | VR- | VR+ |
押 | 応答 | ボリューム- | ボリューム+ |
長押 | 切る | – | – |
通話 | Power | REV | FWD | VR- | VR+ |
押 | 通話終了 | 受信NR切り替え | 送信NR切り替え | ボリューム- | ボリューム+ |
長押 | 保留 | 受話 | 保留 | マイクミュート | ミュート解除 |
通話中はVR+とVR-を同時押しで電話機切り替え、グループ通話の場合はREVとFWDを同時押しでメンバーの追加を行います。
回路解説
主に「作る人」向けの回路解説です。
まずは全体の原理回路図を示します。
○ アンプ回路
設計可能箇所であるアンプ部の原理回路は図2のようになっています。オペアンプを使用しており、よく見る非反転増幅器C1と、その前段に固定抵抗による分圧回路C2がついています。音量調整はBM62モジュールに内蔵のデジタルボリュームで行います。オーディオ的にはわかりやすい欠点があり、嫌われがちなデジタルボリュームですが、それを採用することによってアンプ回路は非反転増幅回路らしからぬ柔軟性を持ちます。
まずわかりやすい特徴として、R1=R3,R2=R4またはR1=R4,R2=R3とすればオペアンプの入力端子から見た抵抗値が+-で等しくなるため、アンプ回路のオフセットが小さくなります。また、このような組み合わせの抵抗を設定すると増幅率も自在に設定することができます。
C1とC2それぞれを通った信号がどのように増幅(減衰)されるか、C1の増幅率をG1、C2の増幅率をG2として式にすると以下のようになります。
G1=(R1+R2)/R1=1+R2/R1
G2=R3/(R3+R4)
G=Vout/Vin=G1*G2
・ R1=R3,R2=R4の場合
G2の式をR1,R2で書き換えて総ゲインGを計算します。
G2=R1/(R1+R2)
G=G1*G2={(R1+R2)/R1}*{R1/(R1+R2)}=1
このようにアンプ回路の総ゲインは1倍になります。しかしながら、オペアンプにはG1の増幅率を設定することができるため、あらゆるオペアンプを増幅率実質1倍で使うことができます。
・R1=R3,R2=R3の場合
こちらの場合もG2の式をR1,R2で書き換えて総ゲインGを計算します。
G2=R2/(R1+R2)
G=G1*G2={(R1+R2)/R1}*{R2/(R1+R2)}=R2/R1
アンプ回路の総ゲインはR2/R1となります。非反転増幅器では1倍以下(減衰)の設定ができませんが前段の抵抗分圧回路があることで0~1倍の範囲の増幅率も選択することができます。R1=R2とした場合はG1=2の1倍増幅器になります。
抵抗分圧回路はボリュームの出力インピーダンスが変化するアナログボリュームでは使うことができません。ビット落ちというわかりやすい欠点があるためオーディオ的には嫌われがちなデジタルボリュームですが、回路的にはこのようにアナログボリュームにはない大きな利点があります。
○ 電源回路
このアンプではオペアンプとBM62で電池を共有するため電源切り替え回路が必要でした。USB電源接続中はBM62が電池を充電するので、その時は電池をアンプやUSB電源と切り離す必要があります。そうすると、図5のような回路になります。
ショットキーバリアダイオード1本です。この回路では5V接続時に5V、そうでなければダイオードを通して電池の電圧がオペアンプに供給されることになります。
しかし、Li-poバッテリーの電圧は2.8~4.2Vですので、ダイオードの順方向電圧で最大0.4V下がるとするとバッテリー駆動時の供給電圧は最低で2.4Vになってしまいます。AD8656やLME49721といった高速な低電圧駆動オペアンプは2.7V以上で動きますから、もう少し電圧が欲しいところです。
そこで図6の回路を採用しました。P型MOSFETにはON抵抗が50mΩ前後のエンハンスメント型を使用しています。
USB駆動時、MOSFETはOFFとなり、電池を切り離します。そして、オペアンプにはダイオードを通して約4.6Vの電圧が供給されます。
バッテリー駆動時はMOSFETがONとなり、ON抵抗が非常に低いため電圧降下ほぼ0(実測値で2mV以下)でオペアンプにはバッテリー電圧がそのまま供給されます。この回路により、素子数は増えましたがバッテリーの電圧を余すことなく使うことができるようになりました。
後部のNchMOSにはBM62から出るイネーブル信号を受け取ってアンプの電源をON/OFFする役割があります。
○マイク回路
前記事でコメントにもありました、マイク回路です。BM62はMIC1_P、MIC1_N、MIC_BIASの3つマイク用の端子を持ちます。ワイヤレスアンプでは音楽再生機能をメインとしたかったため、マイク回路は内蔵としました。
外部入力(有線の小型マイク)からの入力を受ける場合は図8のようにすると受けられるはずです(作っていないので動作確認していません)。
○書き込み回路
BM62の設定変更という側面もありますが、ファームウェアが1.03から2.01にアップデートされて機能が大幅に改善されましたので、図9のようにシリアル端子と制御端子3つを設置しています。実際にはハーフピッチピンヘッダがBMの各対応端子に直結されており、制御はシリアル基板の方で行います。
アップデート方法なんかは後日。
回路図参考にさせて頂きます。
質問ですが、A_EN(P0_4)のイネーブル信号を検知して後段のNMOSを制御されていますが、A_ENはどのタイミングで動作するのでしょうか?データシートを見たのですが良くわかりません。
ご教授ください。
先ほどの続きですが、充電中にA_ENが動作するのでしょうか?
コメントありがとうございます。
A_EN(lnd_1)の状態はBM62ボードの電源が入っているかに依存します。
BM62がOFFであれば外部アンプの電源を入れておく意味はありませんので、同時に電源をOFFにする役割があります。
lnd_1は確かオプションで、UIToolを使わないと信号が出なかったと思います。
UIToolをダウンロードし、EVBの取扱説明書と見比べてみると、おっしゃっていることが理解できました。
GPIOがいろいろ設定できるようになっているんですね。
それとUIToolのHELPに、ある程度説明があるのでやっと理解できました。
また、何かあったら質問させてください。
ありがとうございました。
BM64を使用したBTアンプを自作するのに回路図参考にさせて頂いているのですが電源についての質問です。今自作しているのはポータブル機なのでバッテリーを乗せません。そうした場合21ピン(BATT)へいれる回路はいらないのでしょうか?あと22ピンはなにをされてるんでしょうか?
ぜひご教授ください。
BM64を使用したBTアンプを自作しているのですが電源についての質問です。今自作しているのはポータブル機なのでバッテリーを乗せません。そうした場合21pinに繋がる回路はいらないのでしょうか?また、22pinに繋がる回路は、どんな動作がされてるんでしょうか?
回路に全然詳しくないのでぜひご教授ください。
邦太郎 様,蓮太郎 様
BM62の21ピンは3.7V定格のリチウムイオンバッテリーを接続する端子です。
BM62/64内蔵のバッテリー管理機能を使わない場合は何も接続しなくてOKです。20ピンに直接5Vを入力すれば動作します。
22ピンは周囲温度検出ピンといって、バッテリーを接続するときに必要です。
よって、21ピンを使わない場合は何も接続する必要はないようです。
以上の内容はBM64の同名のピンでも同じです。
バッテリーを使用する場合は、サーミスタという部品を使ってデータシート23ページのような回路を接続しないと充電してくれません。
これは温度計となる回路で、リチウムイオンバッテリーは周囲温度0~40℃で使用することが規定されているため、それが確認されないと使ってくれない、ということのようです。